Standard Bank – ビジネスにおけるアジャイルのためのSAFeとDevOpsの導入

Standard Bank - Implementing SAFe and DevOps

「SAFeは、アジャイルを全社に展開するために必要な構造を提供してくれました。組織の複雑性に対応し、生産性、士気、品質といった目標を達成するために、ポートフォリオや役割、職務を構築するための枠組みを示してくれたのです。」

Alex Keyter, Lean Agile Transformation Consultant (SPC4), Standard Bank

課題:

同行では、サービス品質、業務効率、従業員の士気の向上を目指していたが、少数のチームを超えてリーンアジャイルを全社的に展開しようとするこれまでの取り組みは、停滞していました。

業界:

金融サービス

ソリューション:

SAFe®

成果:

  • 市場投入までの期間は700日から30日に短縮
  • デプロイ(本番環境への展開)は、年に1~2回から月次に増加
  • 生産性の50%向上
  • コストの77%削減
  • 予測精度は68%にまで向上
  • SAFeの効果もあり、2013年から2016年にかけて、組織の健全性は12ポイント改善

ベストプラクティス:

  • カルチャーの変革に注力 – Standard Bankは、個人表彰からチーム単位の表彰やKPI評価へと移行しました。ゲーミフィケーション、スキル強化、業務の自動化を通じて、社員の熱意とエンゲージメントを高めました。
  • 初期の段階からビジネス部門と連携を取る – 移行の開始当初はIT部門が中心でしたが、振り返ってみると、変革がITだけの話ではないことを理解してもらうために、より早い段階でビジネスオーナーを巻き込むべきだったと気づきました。少数の先進的な思考を持つメンバーが、他の関係者に影響を与えました。
  • エンジニアリングにも目を向けることを忘れずに – 「SAFeは、エンジニアリングへの注力と組み合わせることで、次のレベルへと引き上げてくれます。」と、Standard BankのCTO、Mike Murphy氏は述べています。

概要

Standard Bankは南アフリカに本拠を置く、アフリカ最大の銀行グループであり、総資産は1.95兆南アフリカランド(約1430億米ドル)に上ります。150年以上にわたりアフリカ大陸に貢献し、現在ではサブサハラ地域の20カ国に展開しています。Standard Bankは、個人および法人向け銀行業務、コーポレートおよび投資銀行業務、資産運用の分野で、7つのポートフォリオにわたるサービスを提供しています。

Standard Bank - Implementing SAFe and DevOps

Standard BankのITチームは、銀行を常に最先端に保つために、毎年およそ600件のプロジェクトに取り組んでいます。しかし従来は、定められた期間、予算、スコープ内で完了するプロジェクトはごく一部にとどまっていました。

Standard Bankは、実行力の向上を目的として、リーンアジャイルのパイロット導入を複数試みました。しかし、孤立した少数のチームから全社展開を目指した際に、取り組みは停滞してしまいました。

「私たちは、まさにプロジェクトベースの環境にいました」と、Standard Bankのリーンアジャイル変革コンサルタント(SPC4)であるAlex Keyter氏は説明します。
「ウォーターフォール型や、複数チームの連携によるアプローチ、その他のフレームワークも試しましたが、組織の縦割り構造を越えて価値を届けるという課題には、どれも十分に対応できませんでした。Standard BankのITには2,000を超えるシステムがあり、ひとつの施策を成功裏に実行するには膨大な調整が必要だったのです。」

カルチャー変革とPOCの立ち上げ

国内外で複数のベンチマークを設定したことを背景に、4本柱からなるIT戦略を始動させました。

  • ITの保守管理や基盤整備、サービスの安定性、複雑性の簡素化・削減といった”卓越した基本”を実践することで、サービス品質の向上を目指す
  • 市場への対応力
  • 顧客価値の提供を支える基盤としての持続可能性
  • 商業的な実用主義に基づいて実現される、妥当な価格設定


目標の実現を支えるために、同行はScaled Agile Framework®(SAFe®)の導入に踏み切り、展開に向けて経営層からの支持も得ました。
「SAFeは、アジャイルを全社的に展開するために必要な構造を提供してくれました」と、Keyter氏は述べています。
「組織の複雑性に対応し、戦略目標の達成に向けてポートフォリオ、プログラム、チームを構築するための枠組みを提供してくれたのです。」

しかし、SAFeの本格展開に先立ち、Standard Bankはリーダーやチームの行動変革を促すために、さまざまなカルチャー変革の取り組みを開始し、あわせて概念実証(PoC)も立ち上げました。

「カルチャーを変えるというのは、輪ゴムを引っ張るようなものです」と、Standard BankのエンジニアリングおよびITトランスフォーメーション部門の責任者であるJosef Langerman氏は説明します。
「引っ張った輪ゴムも、手を離せば元の心地よい位置に戻ってしまいます。また力を加えて引っ張らなければなりません。これを何度も、異なる方法で繰り返すことで、輪ゴムは徐々に柔らかく、伸びやすくなっていきます。同じように、カルチャーの変革にも継続的な努力と多様な手法が必要であり、自然と新しい、望ましい状態へと変化していくのです。万能な特効薬はありません。」

同行は、自らのコンフォートゾーン(慣れたやり方)から脱却するために、さまざまな取り組みを実施しました。

  • クロスファンクショナルチーム(機能横断型チーム)を編成し、一定のリズムで成果を上げ始めました
  • インターネットバンキングチームとATMチームは、作業をより小さく管理しやすい単位に分解する手法を実践し、スプリント期間中に完了した成果をステークホルダーに対して披露しました
  • ビジネスおよびITのステークホルダーもこれらのショーケースに参加し、チームに対してフィードバックを行いました
  • 服装を、スーツとネクタイからジーンズへと切り替えました
  • IT部門とともにオフサイトセッションを実施し、カルチャーテーマの策定や、ギルドの刷新などを進めました
  • SAFe導入に先立ちDevOpsの取り組みを開始していましたが、本格展開のタイミングで体制が正式に整えられました


SAFeへの移行の一環として、Standard Bankはスクリプトを活用した完全自動のセルフプロビジョニング環境の構築に取り組みました。また、スキルへの関心を高めるためにオートメーションチャレンジを実施し、意欲喚起を図りました。さらに、自動化のパイロット実施により、明確で具体的な成果も得られました。

  • 20分 – アプリケーションサーバースタックのエンドツーエンドでのデプロイ所要時間
  • 30秒 – 新しいコードを顧客にリリースするまでの所要時間
  • 0% – デプロイによる顧客への影響


さらに、同行は組織の将来像に対して明確なビジョンを掲げました。経営陣は、目標や主要業績評価指標(KPI)に関する共通理解を築き、変革やコーチング文化の在り方について、シリコンバレーのテックリーダーたちを手本としました。

現場レベルでは、開発コミュニティが銀行の将来像の定義に参画しました。
またStandard Bankは、社員がグループとして自らの文化を設計できるよう権限を委ね、真の主体性の獲得を促しました。

SAFeとDevOpsの導入

最初のアジャイルリリーストレイン(ART)の立ち上げに先立ち、Standard Bankの各ポートフォリオはアウトサイドイン型のアプローチを採用し、従来のプロジェクト型構造から脱却して、SAFeの設計原則に基づくクロスファンクショナルなチーム、プログラム、ポートフォリオの構成へと移行しました。
同行は、2016年7月1日をマイルストーンとして設定し、チームが同一拠点に集まり、バックログに基づいて作業を行い、業務の可視化と自己管理型チームの確立を図ることを目指しました。

アウトサイドイン型の設計が形になり始める中、グループCIOの支援を受けながら人材部門が中心となり、個人の再スキル習得にフォーカスしたプログラムを開始しました。このプログラムでは、既存の人材をソフトウェアエンジニア、品質保証エンジニア、ユーザーエクスペリエンスアナリストなどに再配置することを目的としています。適性テストに合格し、プログラムを修了した人材はフィーチャーチームに配属されました。その結果、組織内では業務を管理する人よりも、実際に手を動かして成果を出す人が増えるという変化が生まれました。

「私たちは、これまでのビジネスの運営モデルを本当に打ち壊しました」と、アフリカ地域担当のデジタル部門責任者であるAdrian Vermooten氏は語ります。
「私たちはこう言ったのです。『やり方を変える。今のビルを出て、今までの仕事のやり方を手放してもらう』と。」

2016年7月、2名のメンバーがSAFeプログラムコンサルタント(SPC)トレーニングを受講し、帰国後すぐに数百人のチームメンバーへのトレーニングを開始しました。2016年7月から2017年2月にかけて、Standard Bankは初回のプランニングインターバル(PI)計画ミーティング(2017年1月実施)に向けた準備として、約1,200名に「Leading SAFe」トレーニングを実施しました。

ある部門のCIOは、最初のPI実施に先立ち、SAFeアジリストの認定資格を取得することで、経営層としてのコミットメントを示しました。その後、彼をはじめとするリーダーたちは、初回イベントの実施に向けて綿密な計画を立てました。

Standard Bank - Implementing SAFe and DevOps

最初のPI:マインドセットの転換

最初のプランニングインターバル(PI)に向けて、同行はポートフォリオ内でアジャイルリリーストレイン(ART)に影響を与える社内外のさまざまなチームを評価し、それに基づいて関係者を招集しました。
最初のPIでは、カード・新興決済グループから300人が参加しました。同グループは32以上のシステムと多数の相互依存関係に依存しており、運営は困難を伴いましたが、このイベントは大きなマインドセットの転換を促す成果を上げました。

「私たちは普段、無意識のうちに『なぜ?それは無理だ』という考え方から入ってしまいます。けれど今回のプロセスでは、『できる、そのためにはどうする?』という発想だったんです」と、参加者の一人は語りました。

PIプランニングセッションが成功裏に終わったことで、その取り組みがベンチマークとなり、他のポートフォリオでも次々と初回のPIプランニングセッションが実施されました。

生産性が50%向上

現在では、「Leading SAFe」のトレーニングを受けた人は2,000名を超え、リーンアジャイルの実践とSAFeは、Standard Bankの戦略的計画の中核を成す存在となっています。
SAFeの導入によって、定性的・定量的の両面で多くのメリットが得られました。Standard Bankは、部門間の壁を取り払い、依存関係の管理を改善することに成功しました。
さらに、複雑性を排除し、コストを削減しながらも、より多くの価値を生み出せる体制を構築しています。現在では、ビジネス部門がITの変化を考慮して、作業や予算の優先順位を決めるようになっています。

同行では、成熟度の高い一部のチームやポートフォリオにおいて、顕著な成果が見られたと報告しています。

  • 市場投入までの期間は700日から30日に短縮
  • デプロイ(本番環境への展開)は、年に1~2回から月次に増加
  • 生産性の50%向上
  • コストの77%削減
  • 予測精度は68%にまで向上
  • 2013年から2016年にかけて、組織の健全性は12ポイント改善

期待どおり、取り組みの効果は最終的に顧客にも波及しています。「私たちは、顧客のバリューチェーンをより忠実に反映するようなチーム編成を行いました」と、Vermooten氏は語ります。

数値上の成果にとどまらず、Vermooten氏は日々の現場の変化を肌で実感しています。シニアスタッフは自席を離れてチームとより多く交流し、ジュニアスタッフは自由にアイデアを出せるようになってきたのです。

「組織の階層をフラット化しました」と彼は言います。「以前は、会議で発言するのはシニアだけでした。今では、どの会議でもジュニアが主導して話すようになっています。人々のエネルギーと熱量が高まり、個々の力がより引き出されているのです。」

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